大阪地方裁判所 昭和39年(行ウ)22号 判決 1966年4月01日
原告 福田滋
被告 大阪府知事
主文
一、原告の訴えを却下する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、申立て
(原告)
一、原告が昭和三七年四月一〇日別紙物件表記載の土地(以下本件土地という)について、農地法六条一項一号に該当するとしてなした買収の申出に対し、被告が右申出の日から起算して相当の期間内である一〇ケ月以内になんらかの処分をすべきにかかわらず、これをしないことの違法を確認する。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
本案前の申立て
主文同旨
本案の申立て
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
第二、請求の原因
一、本件土地は、京都市左京区下鴨塚本町二〇番地に居住する訴外中村善治の所有であつて、原告は同人から右土地を賃借している者である。したがつて、本件土地はいわゆる不在地主所有の小作地であり、農地法六条一項一号により、所有を禁じられている。
二、原告は同三七年四月一〇日八尾市農業委員会(以下農業委という)に対し、被告が同法九条一項の買収をなすよう申し立てた。
三、農業委は、七月三日同法八条一項による公示をなし、同人にこれを通知するとともに八月三日書類を縦覧に供した上、一一月一九日本件土地を買収すべきであるとして、同法一〇条にもとづいて買収進達をなす旨の決議をして、その頃被告に右進達をした。
四、右進達を受けたときは遅滞なく買収令書の交付をしなければならなく、この期間は一ケ月が相当であるのに、被告は買収手続をしない。被告の右不作為は違法であるから、これが確認を求める。
五、なお、原告は同法九条一項により本件土地買収の申請権を有する。
1、農地法は耕作者の立場を強く保護している。このことは同法一条の文言からも明らかである。
2、農地法の前身である昭和二〇年改正の農地調整法によると、小作人の譲受申立てによつて強制譲渡が開始された。この沿革は無視されるべきではない。
3、従来から同法六条一項に該当する小作地等の買収手続は、小作人からの買収申出によつて開始していたものである。それ故にこそ、農業委も「買収進達書」中の「買収しようとする事由書」中に「買収の申出あつた日又は買収すべき物件を発見した日」という記載欄を必らず設けて、その事由のあつた年月日の記入をすることを慣行としている。
第三、答弁
(本案前の抗弁)
一、行政事件訴訟法(以下行訴法という)において、不作為違法確認の訴えの対象となるのは、「法令に基づく申請」に対する不作為のみである。ここにいう「法令に基づく申請」とは、法令の明文の規定にもとづく申請と解すべきである。したがつて職権によつて発動される行政権の行使についての申出に対する不作為は、違法確認の訴えの対象とならない。そして、小作農は、農地法九条による買収につき、申請権がない。
1、右買収手続は、農業委員会が同法六条、七条の規定により所有してはならない小作地等を発見したときに開始される。この発見は、職権によると、当該農地の小作人からの通告によると、あるいはその他の情報によるとを問わない。しかし同法八四条は、毎年八月一日現在の小作地等の所有状況を調査することを農業委員会に義務づけることにより、原則として職権によつて探知すべきことが法律上明定されている。
2、現在農業委員会において使用されている買収進達書の用紙は、同法九条、一五条一項、一六条による買収の場合等に共通に使用されている。右用紙の、「買収の申出あつた日」欄は一六条の場合に、「買収すべき物件を発見した日」欄は九条、一五条一項の場合に記載するために設けられたものである。
二、なお、被告は本件土地の地理的状況、附近の土地の宅地化されている利用状況等からみて、もはや現在の時点においては、同法九条により買収すべき農地でないと判断したので、同三八年九月三日本件土地の買収が適当でない理由を付して、大阪府農林部長名で農業委会長あてに買収および売渡進達書を返戻し、同月七日同会長から原告あてに買収および売渡進達書の返戻があつた旨通知した。したがつて不作為状態はすでに解消しているから、原告の本訴請求は訴えの利益を欠くものである。
(本案の答弁)
一、請求原因一の事実は認める。
二、二の事実は不知。ただし原告が、その主張の日に農業委に対し同法三七条により本件土地の買受けの申込みをしたことは認める。
三、三の事実は認める。
四、四の事実は争う。
第四、証拠<省略>
理由
一、本件土地は不在地主である訴外中村善治の所有であつて、原告が同人から賃借していること、農業委が右土地につき農地法八条にもとづく公示、書類の縦覧と通知をなし、ついで被告に関係書類の進達をしたことは、当事者間に争いがない。
二、原告に本件土地買収の申請権がない。
農地法八条、九条にもとづく買収は、六条に違反する小作地所有の是正を目的とするものであつて、小作農の個人的な利益を直接にその目的とするものとは解せられない。右買収の結果、本件土地が小作人である原告に売り渡される可能性があるとしても、それは反射的に生ずる利益にすぎない。昭和二〇年法六四、一部改正による農地調整法四条三項は、都道府県等の団体に自作農創設維持の事業に要する土地の譲渡等に関し、都道府県農地委員会に裁定を申請する権利を認めていたが、これは自作農創設特別措置法三条による政府の買収権に移行し、さらに農地法八条、九条に承継せられたものである。右のとおり農地調整法以来小作農に小作地買収の申請権を認めていたことはないのである。このように原告は、本件土地の買収につき、反射的利益を有するにすぎず、申請権を有しない。
原告は、本件土地の買収につき申請権がないので、行訴法三七条にいわゆる処分を申請した者ということができなく、本件土地買収についての被告の不作為につき、違法確認の訴えを提起する適格を有しない。結局本件訴えは不適法として却下を免れない。
よつて、訴訟費用の負担について民訴八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 前田覚郎 木村輝武 白井皓喜)
(別紙省略)